先日開催された「KENNEY Game Jam」に参加した。私にとって初めてのゲームジャムであった。今回はゲームジャムに参加してみてわかったこと、感じたことを交えつつ、itch.io のサイトで催されているインディーゲームデベロッパー向けのゲームジャムについて記事にした。



ゲームジャムとは

ゲームジャムとは、参加者が短い期間でゲームを開発、公開して評価し合うイベントのことである。ゲーム開発のハッカソン とも言われる。

itch.io のサイトはゲーム、アセットの販売のほか、ワールドワイドで一般の個人または小規模チーム(つまりインディーゲームデベロッパー)に向けて開催されているゲームジャムが数多く開催されている。毎月開催されているものや、年に一回のイベントとして開催されているものなど、小規模、大規模さまざまなゲームジャムが存在し、一年を通して何らかのゲームジャムが常に開催されているのが現状だ。私が参加したKENNEY Jam 2022 もitch.io にて開催された。
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ゲームジャムに参加するのは主に個人開発者や小規模チームだ。初心者からベテランまでスキルレベルもさまざまだ。ベテランの方が有利だと思われるそうだが、作品の提出期間が短いゲームジャムが多く、その場合、大作ゲームを作り込むことはほぼ不可能なので、圧倒的な差はつけにくいだろう。一つの目標として、初心者でも挑戦する人が割と多い印象だ。

もちろん itch.io で開催されているゲームジャムに参加するには、アカウントを作成してログインする必要があるので、参加したいゲームジャムがある場合は、早めにアカウントを作成しておくようにしよう。



ゲームジャムに参加する意義

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ゲームジャムに馴染みのない人間(私のことだ)からすると、一見、一般に広く呼びかけたコンクールのようなもののように見えるかもしれない。コンクールといえば、優れた作品に優勝、準優勝と順位をつけ、賞金や賞品がもらえたりする。ゲームジャムの中にはそういったものもあるが、ほとんどの場合そうではない。ゲームジャムはどちらかというとお祭りである。参加者がお互いのゲームをプレイし合って、「あなたのゲームのアイデアはこういうところが素晴らしい」とか「きみのゲームシステムがこういうところが斬新で驚いた」などとフィードバックを送ったり、新たなインスピレーションを得たりしながら、開発者としてレベルアップできる、それがゲームジャムの醍醐味なのだ。

しかも、お祭りと言いながら、全力で作り上げた作品をアピールし、作品と自分の技術やアイデアを世に知らしめるための絶好の機会でもあるのだ。優れた作品は当然、最終的な評価結果で上位にランクインするだろう。これは非常に名誉なことだが、それだけではない。有名なゲームジャムで上位に食い込めば、多くの人の目に触れやすくなり、大手パブリッシャーの目に止まる可能性すらある。また、開発者に多くのファンがつくこともある。このように、ゲーム開発者としての成功のとっかかりにもなりうるイベント、という側面もある。

ただし、それらの恩恵は、圧倒的に優れたゲームを公開できた場合の話だ。しかし、落胆する必要はない。万人が驚くようなゲームが作れなかったとしても、ゲームジャムに参加する真の価値は他にある。

まずひとつは、他の参加者のゲームをたくさんプレイできることだ。他の参加者のゲームをプレイし、真剣に評価することで、自分にはなかった別のアプローチが見えてくる。これが非常に勉強になるのだ。

もう一つは、自分のゲームを他の参加者から評価してもらえることだ。評価項目に対するレーティングも反省材料になるのだが、より具体的なフィードバックとして、自分のゲームに対して具体的なコメントをもらえることが一番の収穫になる。褒められることばかりではないので、少し傷ついてしまうこともあるかもしれないが、私は改善点のフィードバックこそが最良の成長材料だと考えている。自分では気づかなかった改善点を指摘してもらえる絶好の機会なのである。

例えば、私が今回参加した KENNEY Jam 2022 のテーマは Growth(成長) であったが、私は Hungry Cyclops という、魔法使いがペットのサイクロプスという 一つ目 のモンスターに餌をあげて育てるカジュアルゲームを提出した。サイクロプスが大きくなればなるほど、サイクロプスが歩く時の画面揺れが激しくなる仕様だった。テーマに沿っているという部分はかなり高評価を頂けたが、画面揺れについて、激しすぎるという指摘が複数あった。これは私自身ではあまり意識できていなかったポイントだった。ユーザー体験を意識する必要性を大いに痛感した。

ちなみに、ブラウザ上でプレイできるので、もし良ければ Hungry Cyclops をやってみてほしい。下のバナーからアクセス可能だ。



ゲームジャムに参加する際の英語の必要性

itch.io のゲームジャムの場合、Web上でワールドワイドで開催されるため、参加するには要所要所で英語が必要だ。これが英語が苦手な人が多い日本人にとっては意外と大きな障壁になるかもしれない。

しかし、英語があまりできない場合は参加できないかというと、そうでもない。

まず、ゲームジャムの参加ルールは英語で表記されているが、DeepL など機械翻訳や、ブラウザの翻訳機能で対処可能だ。

次に、ゲーム内の英語の使用については、会話のダイアログや文字でのUI表現を極力避けるようにすれば、そこまで英語ができなくても問題ないだろう。しかも、ゲームジャムのテーマが発表されてから提出期限までの短い期間で作成するゲームとなるため、むしろ文字での表現は自然と少なくなるはずだ。

ゲームの提出時についても、DeepL など機械翻訳を駆使すればよい。DeepL の翻訳精度は非常に高い。下手に自分で英語を書くより自然な表現の文章を作ってくれる。説明文にゲームの操作方法とルールを記載しておけばOKだ。もし既知のバグやイシューがあれば補足説明を入れるとより丁寧だ。



ゲームジャムの流れ

ゲームジャムの流れは大まかに以下の通りである。

  1. 参加資格、テーマ発表日、参加ルールなど事前に公開される
  2. テーマが発表される
  3. 自分のゲームを提出する(期間は2~3日程度のものが多い)
  4. 他の人のゲーム評価する(期間は5日~1週間程度のものが多い)
  5. 評価結果発表

ルール、FAQなどは事前に公開されることがほとんどなので、それらを確認して自分が参加できそうなゲームジャムかどうか判断すると良いだろう。特にルールについてはよく確認しておこう。下のスクリーンショットは KENNEY Jam 2022 のルールとFAQだ。
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テーマ発表後の提出期間は数日程度と短いことが多く、その間にゲームを1本完成させるというのはなかなか過酷である。他の作品に負けないようにと考えると寝食惜しんで作業してしまいそうだが、健康第一で十分な食事と睡眠を取るように心がけたいところだ。



テーマをどう捉えるべきか

ゲームジャムにはテーマがつきものだ。テーマに合わせて開発することで、ゲームをコンパクトにまとめることができる。また、制約のある中で開発したゲームの方が、アイデアが光るものが生まれやすい。

「テーマに合わせるのが面倒だったらテーマは無視すれば良い」という意見もたまに目にするが、私はそうは思わない。テーマ性という評価軸を失うと、アイデアではなく、グラフィックやゲームシステムなどの技術面での評価に偏ってしまうため、ベテランの開発者ばかりが有利になってしまうだろう。

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私が参加した KENNEY Jam 2022 のテーマは Growth だった。私はモンスターに餌を与えて体を大きく成長させるというゲームを作って、テーマ性を表現した。一方、同じテーマでも他の開発者によるさまざまな表現が見られた。例えば、植物を繁殖させる、武器を伸ばす、軍隊の規模を大きくする、建物を高くする、街を発展させる、生物の成長を絵本のように見せる、など解釈は千差万別だ。

さらにそれらの解釈にゲーム性を与えることで、さらに表現の多様性が増す。例えば、2Dピクセルアートでキノコを増やすゲームにしたり、3Dシミュレーションとして、グリッドに沿って建物を建てて街を発展させるゲームにしたりだ。

最終的に他の開発者から評価されることを考慮すると、プレイヤーがテーマを感じられることが提出するゲームの大前提になるだろう。独自の解釈をしすぎて、テーマ性がわかりにくくなると、テーマ性に対する評価を落としてしまうので注意が必要だ。「テーマ性はわかりやすく、ゲーム性はおもしろく」という考え方が評価されやすいゲームになるだろう。

個人的に KENNEY Jam 2022 でアイデアが印象的だったのは、アイテムに当たるとプレイヤーキャラクターのサイズが大きくなっていくプラットフォーマーゲームだ。実際の画面上では、プレイヤーキャラクターのサイズは変わらず、背景のサイズが小さくなっていった。なるほど、と唸ってしまった。このように、テーマ性がはっきりしていて、かつ「そっちか」と意表を突く表現ができると最高だ。



ゲームを短期間で完成させるためのコツ

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作品の提出期間が1週間以上ある場合は、ある程度余裕とスケジュール感を持ってゲームを作り上げることができるだだろう。しかし、テーマが発表されてから提出期間が2、3日しかないとなると、そこからゲームを一本作り上げるのはかなり大変な作業だ。

まず、テーマが発表されたら、それに沿ってどのようなゲームを作るかアイデアを出して方向性を固めるまでに半日から一日はかかる可能性がある。さらに実際にコーディングしたり画像を用意したりしてゲームを開発する作業にも一日以上かかるだろう。そうなると納期内にゲームを完成させるのは至難の業のように思えてくる。

しかし、納期内に作品を仕上げるためのコツは、いくつかある。

まずひとつ目は、全体を通してシンプルに保つことだ。細かい部分は徹底的に排除しなければならない。UIのデザインやキャラクターのテクスチャ画像とそのアニメーション、バックグラウンドミュージック、サウンドなど、どれも凝りはじめるとキリがない。絶対に意識すべきなのは、徹底してゲームの構成要素を減らすことだ。提出するゲームができるだけシンプルでコンパクトにまとまった形になるよう努めるのが肝である。

そして、ふたつ目。プログラミングする際、既存のコードで流用できるものはできるだけコピー&ペーストして、手打ちで一からプログラムを書かないようにすることだ。思いついたゲームに対して、今までに自分が作ってきたゲームからそのまま使えそうなコードがないか検討することから始めるというわけだ。

例えば、私が KENNEY Jam 2022 で提出したゲーム「Hungry Cyclops」の場合、このサイトに掲載している画面揺れのチュートリアル で作成していた画面揺れのコードを流用してサイクロプスが歩くたびに生じる画面揺れを実装し、2D経路探索のチュートリアル で作成した経路探索用コードを流用して、サイクロプスがプレイヤーキャラクターについてくる仕組みを実装した。その結果、手打ちのコーディング時間を削減し、意図しないエラーの発生とその対処時間を回避できたはずだ。

最後に、画像や音、フォントなどのアセットファイルの準備について。これらを一つずつ作っている暇はおそらくほとんどないだろう。アセットストアでの購入(フリーのものもたくさんある)や、過去に自分が作成したものの流用を検討するように心がけよう。

ちなみに KENNEY Jam 2022 の場合は、ルール上、音やフォント以外の2Dのスプライトテクスチャや3DのモデルはKENNEY のサイトで公開されているアセットを利用することが求められていたので、アセットの準備は非常に簡単だった。



自分のゲームを評価してもらうためのコツ

納期内に提出できたら、次は他の参加者からできるだけたくさん評価されることを目標にしたい。ここで強調しておきたいのは、無理に高い評価を得ることを目標にするのではなく、あくまで評価回数を増やすことを目標にする、ということだ。評価回数が少ないと、評価の平均が偏ってしまうことがある。人それぞれゲームの好みは異なるので、例えば、たまたまあなたのゲームが気に入らない人にしか評価してもらえなければ、実際のゲームの完成度から乖離した評価結果になる可能性がある。要するに、評価してもらう回数を増やして、適正な評価結果になるように努めるべき、という話である。そうすれば、評価された後の改善活動も的を射たものになるはずだ。

ところで、特に参加者の多いゲームジャムの場合、他の人の評価をする作業もかなり骨の折れる作業である。他の人の評価をしたところで自分の評価が変わるわけではないので、この作業にあまりモチベーションの上がらない人は多いかもしれない。ではどうすればよりたくさん評価してもらえるようになるのだろうか。

カバーイメージをしっかり作ろう

ゲームジャムのWebサイト上に参加者のゲームがリスト表示された時、評価者はまずサムネイルを見てそのゲームが面白そうか、そうでないかを瞬時に判断するだろう。サムネイルになるカバーイメージが第一印象として非常に重要なのである。
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色調は彩度が高く、コントラストの強い画像にすれば、真っ先に目に飛び込んでくるサムネイルになるだろう。また、そのゲームの内容が伝わるようなキャラクターや他のオブジェクトにフォーカスした画像にするのも効果的だ。実際のゲーム画面のスクリーンショットを使用するならば、それをそのままカバーイメージにするのではなく、重要な部分だけを拡大したり、タイトルなどをつけてバランスの良い画像にする方がよりアピールできるだろう。

次に、プラットフォームの選定が重要だ。一般的には Windows用、macOS用、Linux用、ブラウザ用の4種類の内いずれか(または全て)の形式で提出するというルールが多いようだ。しかし、たまにブラウザ用だけを指定するゲームジャムもある。そして、最もプレイを開始しやすいのもブラウザ用だ。

ゲームジャムが Web 上で開催される限り、そのサイト内ですぐにプレイできるブラウザ用のゲームは、面倒なダウンロードや圧縮ファイルの解凍などの手間が不要なため、比較的評価してもらいやすくなる。反対に、Windows用やmacOS用にゲームを出力した場合、ゲームジャムの Web サイトからファイルをダウンロードする必要があるので評価回数は低くなりがちだ。ちょっとした手間すら避けたくなる人間の性を考えると当然かもしれない。最終的に、ブラウザ用に加えて他のプラットフォーム用にダウンロード版も用意できれば、それがベストではある。

他の人の作品を評価してコメントしよう

自分のゲームを見てもらうには、先に他の人のゲームをプレイしてコメントするのも有効な手段になるだろう。itch.io のゲームジャムでは、コメントした人のゲームへのリンクがコメントのすぐ下に自動的に表示される。
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人情としては大抵「プレイして良いコメントをくれたのだから、この人のゲームもプレイしてあげよう」という気になるものなのだ。無理なお世辞のコメントを残す必要はないが、できるだけ建設的でポジティブなコメントを残しておくようにすると良いだろう。それだけで、そのゲームの開発者が自分のゲームを評価してくれる確率は上がるはずだ。



他の人のゲームを評価するときに気をつけること

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評価前にゲームを必ずプレイすることはもちろん大前提である。1プレイに30秒から1分程度の時間を要するゲームであれば、繰り返し3〜5回くらいプレイすると、大体ゲームの操作方法、仕組み、面白さがわかってくるはずだ。後半はできるだけ評価項目を意識しながらプレイすると、そのあと、各評価項目についての評価を素早く判断できるだろう。

コメントはとにかくポジティブな表現を心がけよう。事実と異なることを述べるのとは違うのでご注意いただきたい。

例えば、プレイしたゲームが操作手順の分かりにくいゲームだったとしよう。この時「操作手順は比較的分かりやすく、初回からプレイを楽しめました」というコメントは事実と異なるのでNGだ。また「操作手順が分かりにくすぎて続けるのが嫌になった」という表現はネガティブなので避けるべきだ。一方、「次にクリックすべき箇所をハイライトするような機能があればさらに快適に楽しめそうです!」という表現はポジティブであり事実を伝えているのでOKだ。

「否定より提案をする」という意識があれば、適切なコメントを残すことができるだろう。おべんちゃらは開発者のためにならないので完全に不要である。



ゲームジャムが終わったら

ゲームジャムの評価期間が終わると、事実上、ゲームジャムも終了となる。そこであっさりゲームジャムから離れてしまうのはなんとももったいない話である。まずは評価結果をしっかり確認し、自分の作品の順位を確かめよう。総合点はもちろん、それぞれの評価項目ごとの数値と、他の参加者からいただいたコメントをしっかり確認しよう。そこから、次の開発に活かすべき改善点が見えてくるはずだ。
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もし、提出した作品にバグが見つかっている場合や、いただいた評価やコメントからすぐに改善できる箇所がある場合は、それらを修正してアップロードしておこう。ゲームジャム終了後もそのゲームを遊んでくれる人たちへの配慮だ。ただし、評価期間中にこれをやると、先に提出したゲームのファイルだけ削除され、修正版がアップロードされないので、十分にご注意いただきたい。説明文に、修正箇所を追記しておくとより丁寧で良い。

あとは、評価結果で上位にランクインしている作品を順番にプレイしていこう。必ずそこに高い評価を得るべくして得た理由があるはずなのだ。そして、良いと思ったアイデアやゲームシステムは自分の今後の作品に活かせるよう、しっかりメモを取っておくようにしよう。
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おわりに

ということで、今回はゲームジャムについて記事を書いた。あなたがもしゲーム開発初心者でも、ゲームジャムに参加する意義は十分にあるということが伝わっただろうか。多くの場合、己の開発能力を成長させる機会になるので、都合の合うゲームジャムには積極的に参加したいものだ。

参加のハードルを下げるためのいくつかのヒントもお伝えしたので振り返っておこう。英語のハードルはDeepLを使って対応すればOK。提出期間中に完成させるために、コードやアセットの流用も検討しつつ、とにかくシンプルかつコンパクトなゲームになるよう心がけることが重要だ。提出後、自分のゲームを評価してもらうために、まずは最適なカバーイメージを用意する。そして、積極的に他の人の作品をプレイしたら、事実に基づいてポジティブなコメントを残すようにするのも大事なポイントだ。

私もまたチャンスがあれば他のゲームジャムにも参加したいと考えている。もしあなたが参加したゲームジャムで私の作品を見かける機会があれば、ぜひフィードバックをいただけると幸いだ。



参考